島の色 静かな声

この作品はドキュメンタリー映画であると同時に、被写体や物語を通じて、視覚芸術的、詩的、思想的な表現の方向へと強く向けられているので、〈映像詩〉という言葉でより良く表現される作品であることを強調しておきたい。
作品のテーマとなっているのは『色』。
私たちが目にしている色は、光がある限りいつでもそこにある身近な存在でありながら、あまりに当たり前にあるために、空気のようにその存在を忘れがちだが、色は私たちの暮らしに深く影響を与え、精神の世界と深い関わりをもち、未知から既知の世界への媒介役を務める存在なのではないだろうか。誰も神のように色を崇めはしないが、何か神と近いところに漂う存在のように思えてならない。そのような謎めいた存在として「色」をとらえた、ユニークな視点をこの作品で表現していきたい。 撮影の対象となるのは、美しく手付かずの自然と貴重な動植物が今も残る西表島。
猛暑や台風といった過酷な自然環境の中、素朴に生きる村人の生活は、現代生活で失われた自然との共生、良質な手仕事、独自の信仰、伝統行事など、日本でも古く貴重と思われる南方文化が色濃く残されている。
主な被写体は、アトリエ「紅露工房」を営む染織作家の石垣昭子氏と、そのパートナーで三線奏者の石垣金星氏。
石垣昭子氏は、ひと時失われていた村の祭事の衣装を見事に復元するなど、伝統技術の保存と後継者育成に力を注ぐと共に、独自の色彩と織りですばらしい布を生み出す、現代的な才能を併せ持つ作家である。
夫の金星氏は、先祖代々からこの島に暮らし、村の公民館長も歴任した人物で、島の唄や踊りといった、伝統芸能の伝承に長年携わる。島の歴史と文化を保存するために、「西表島エコツーリズム協会」の顧問を務め、近年村人の反対を押し切って営業を開始したリゾートホテルとの裁判では原告団長としても奔走している。
現在彼らが積極的に取り組んでいる、伝統文化や環境を守るための活動は、都市化、機械化し、自然破壊しながら全体化していく世界の流れに対し、小さな存在ではあるが、未来を考える上で、大変意味のある一つの姿であるという確信をもつ。
濁りがなく、生命力に溢れ、フィルターのない、この島の自然と人々の暮らしの中にある純粋な美の大切さを、この作品を通して見い出していきたい。